トルクと馬力のちがい

「トルクは回す力、出力(馬力)は仕事の速さ」。かけ算でつながる2つの量と、ギアでの交換、馬力やkWなど単位のふしぎな話。

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トルクと馬力

ここで出てくるエンジンやモーターは、「教育用の簡略化モデル」です。実在の機種ではなく、数字も「だいたいこんな形」の目安です。実際のエンジンやモーターの特性とは違います。

トルクは「回す力」、出力は「仕事の速さ」

ねじを回すとき、ぐっと回す力がトルクです。単位はニュートンメートル(N·m)で、「どれだけの力で、軸からどれだけ離れたところを押すか」を表します。 いっぽう出力(仕事率)は、「1秒あたりにどれだけ仕事をするか」です。同じ力でも、速く回るほど、仕事は速く進みます。

回る軸では、この2つが次のかけ算でつながります。

出力 = トルク × 角速度(角速度は、1秒に何ラジアン回るか)

毎分の回転数(rpm)で書くと、出力[kW] = トルク[N·m] × 回転数[rpm] ÷ 9549.3 になります。9549.3 は、30000 ÷ π を丸めた数です。9550 に丸める資料もあります。 このサイトのプログラムで、ゼロ回転のとき出力がゼロになることも含めて、この式を確かめました(torque-and-power/engine.test.ts)。

どうして、ピークの回転数がずれるの?

ガソリンエンジンのトルクは、中くらいの回転数でいちばん大きくなり、そのあと吸い込む空気の通りにくさや摩擦などで下がっていきます。 ところが出力は「トルク × 回転数」です。トルクが少し下がり始めても、回転数がぐんぐん増えているあいだは、かけ算の答えは上がり続けます。そのため、出力のピークはトルクのピークより高い回転数にきます。

理由は、式でも示せます。出力が最大のところでは、回転数が少し増えたときの「トルクの減り方」と「回転数の増え方」がちょうどつり合っています。つまり、トルクが下がっている側(ピークより右)に、出力のピークがあります。 このサイトのモデルでも、3つの架空の機械で、出力のピークがトルクのピークより高い回転数に出ることを確かめました(同じテスト)。

ふつうは、こう言われます。ディーゼルエンジンは、低い回転数から大きなトルクが出ます。電気モーターは、理論上は止まった状態から最大のトルクが出て、ある回転数まではほぼ同じトルクが続き、その先は出力がほぼ一定でトルクが下がっていきます。 ただしこれは一般的な傾向で、機種によって大きく違います。モーターも、実際には電流や熱の制限があります。

ギアは「力」と「速さ」の交換

ギア(変速機)は、トルクを魔法のように増やす道具ではありません。トルクを増やすぶん、回転は遅くなります。損失がなければ、トルク × 回転数、つまり出力は変わりません。 車輪のトルクは、おおまかに「エンジンのトルク × 変速比 × 最終減速比 × 伝達効率」になります。

たとえば(架空の数字です)、エンジンが 150 N·m、3000 rpm、変速比 3.5、最終減速比 4.0、効率 0.9、タイヤ半径 0.30 m の場合です。 車輪のトルクは 1890 N·m、車輪を押す力は 6300 N、速さは約 6.73 m/s(時速で約 24 km)になります。エンジンの出力が約 47.1 kW、車輪での出力(力 × 速さ)が約 42.4 kW で、47.1 × 0.9 とぴったり合います。 このサイトのプログラムで、この例の値と、どのギアでも「力 × 速さ = エンジンの出力 × 効率」になることを確かめました(torque-and-power/engine.test.ts)。

坂道を登るときに低いギアを使うのは、速さをゆずって、大きな力をもらうためです。

馬力、PS、kW、hp ── 単位もいろいろ

「馬力」は1つではありません。

  • PS(仏馬力、メートル馬力):1秒に 75 kgf·m の仕事をする大きさです。標準の重力加速度を使うと、75 × 9.80665 = 735.49875 W です。PS はドイツ語の「Pferdestärke(馬の強さ)」の頭文字から来ています。
  • hp(英馬力):1 hp は 550 フィート・ポンド重/秒(毎分 33,000)で、約 745.7 W です。ほかに、電気馬力(746 W)や、ボイラー馬力など別の定義もあります。
  • kW(キロワット):国際単位系(SI)の単位です。1960年の国際度量衡総会(CGPM)で、SI の仕事率の単位としてワットが載りました。

PS と hp は、約 1.4% 違います。100 PS は約 73.55 kW で、約 98.6 hp です。同じ「100」でも、単位が違えば出力が違います。このサイトのプログラムで、PS と hp の換算を確かめました(torque-and-power/engine.test.ts)。

トルクの単位も、昔は kgf·m(重量キログラムメートル)がよく使われました。N·m に直すには、9.80665 をかけます(約 9.8 倍)。

いまの自動車のカタログは、kW が主で、PS を括弧書きで添えているものが多いとされます。ただ、いつ、どの決まりで変わったのかは、このサイトでは確認できていないので、年号は書きません。

ワットと「馬力」の由来

仕事率の単位「ワット」は、蒸気機関を改良したジェームズ・ワットにちなんでいます。ただし、ワット自身がこの名前をつけたのではありません。1882年に、イギリスの技術者ウィリアム・シーメンスが、単位の名前として提案したとされます。

いっぽう「馬力」は、ワットが 1780年代に、自分の蒸気機関を売るために、馬の仕事量を目安にして決めた、とされます。それまで馬で動かしていた粉ひきなどの動力を、蒸気機関が置きかえられる、と伝えるためです。 1馬力は毎分 33,000 フィート・ポンド重です。この数字をどうやって出したかには、諸説あります。馬が円を描いて歩く話などが伝わっていますが、細かいところは伝承の域を出ません。 また、これは「馬1頭の実際の力」ではなく、決められた単位の大きさです。

どちらが大事?

「トルクのほうが大事」「馬力のほうが大事」という優劣はありません。出力は、トルクと回転数のかけ算です。どちらも、使いたい場面に合わせて見るものです。 ふだんの発進や坂道では力(トルク)が、速く走り続けるには出力が、それぞれ大切になります。

ここで使った数字は、すべて教えるための簡略な例です。実在の機械の仕様ではありません。

出典・参考

更新: 2026-10-18