見えているのは生き残ったものだけ

帰ってきた飛行機、消えていくファンド、連勝した人。数えられるのが「残ったもの」だけのとき、結論はどう偏るのかを考えます。

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見えない失敗 — 生存者バイアス

「成功した人の話」「古くからある建物」「帰ってきた飛行機」。どれも、目の前にあるのは残ったものだけです。消えたものは見えません。 それなのに、見えているものだけで結論を出すと、偏った答えになります。これを「生存者バイアス」といいます。選び方が偏ると結論も偏る「選択バイアス」の一種です。 このサイトの「生存者バイアス」は、教育用の簡略化モデルです。実際の統計や歴史のくわしい再現ではありません。

帰ってきた飛行機の話

第二次世界大戦のとき、数学者のエイブラハム・ウォールドは、アメリカのコロンビア大学の統計研究グループにいて、帰ってきた戦闘機の損傷から、機体の部位ごとの弱さを見積もる問題に取り組んだ、とされています。 この研究は機密扱いで、当時は公表されませんでした。のちの1980年に、題名「生き残った機体の損傷にもとづく、機体の脆弱性の見積もり方」で再刊されました。題名のとおり、「帰ってきた機体しか見えていない」ことを考えに入れた方法です。

この話は、よく次のように語られます。「帰ってきた機体は翼や胴体に穴が多く、エンジンのまわりは少ない。そこで、穴の多いところを守ろうとしたが、ウォールドは逆に、穴のないところこそ守るべきだと言った。そこに当たった機体は、帰ってこられなかったからだ」。 ただし、これは「よく語られる話」で、ウォールド本人の文書がそのように述べていた、という確かな裏付けは確認できていません。話の核心の考え方は筋が通っていますが、細かい部分は伝説めいています。

考え方だけ取り出してみましょう。弾が機体のどこにでも同じように当たるとします。ところが、ある部位は当たると落ちやすく、別の部位は当たっても帰ってこられるとします。 すると、帰ってきた機体だけを数えると、「落ちやすい部位」には穴が少なく見えます。落ちやすい場所に当たった機体は、数えられる場所にいないからです。 このサイトのモデルでは、区画ごとに「当たると落ちる確率」を決めて、全部の機体と帰ってきた機体の穴の分布を並べて見せます。帰ってきた機体の穴の割合は、落ちる確率が高い区画ほど小さくなります。

消えていくファンド

お金を運用する投資信託(ファンド)でも、同じことが起こります。成績の悪いファンドは、閉じられたり、ほかと合併されたりして、記録から消えます。 いま残っているファンドだけで平均を取ると、実際より成績がよく見えます。研究者はこの問題を、1990年代の論文で扱っています。この記事ではくわしい数字は扱いません。

連勝した人

1,024人が、1年間、毎回コインを投げて勝ち負けを決めるとします。偶然だけでも、10回連続で当たる人は、平均して1人は出ます(1,024 × 1/2の10乗 = 1)。 その人だけを見て「才能がある」と言うのは、生存者バイアスです。ほかの1,023人の外れは、見えなくなっています。 この「n人のうち、k回連続の人は、平均 n ÷ 2のk乗人」という計算を、このサイトのプログラムで確かめました。

「成功した人の助言」も同じです。同じことをして失敗した大勢の人の話は、あまり聞こえてきません。成功の理由が、その習慣にあったのか、運だったのかは、成功した人だけを見てもわかりません。

古い建物は丈夫?

「昔の建物は丈夫だった」と言われることがあります。質の悪い建物は先に取り壊され、残ったものだけが目に入るからだ、という説明がされることがあります。 ただし、この説明には反論もあり、決着はついていません。要因の全部とは限りません。このサイトでは、建物のモデルは仕組みの例として見せるだけで、実際の建物がそうだと言うものではありません。

どう気をつければいい?

生存者バイアスは、「統計の間違い」と責めるものではなく、見る時の視点です。「見えていない側には何があるだろう」と考えると、結論が変わることがあります。失敗した側、消えた側のデータを探してみましょう。

ちがいを見る

  • 全部と、残ったもの:全部で数えるのと、残ったものだけで数えるのとでは、分布が変わります。
  • 偶然と才能:連勝した人だけを見ると、運の力が見えなくなります。
  • 伝説と記録:広まった話と、確かめられた記録は、分けて考えます。

全員を表示するモードと、残ったものだけを表示するモードを切り替えて、何が見えなくなるのかを確かめてみましょう。

出典・参考

更新: 2026-10-18