血液のめぐりのしくみ
心臓が1分間に送り出す量、大動脈と毛細血管で流れの速さがちがう理由、そして「毛細血管は地球2周半」という有名な数字のあやうさ。
遊んでみる血液のめぐり
ここの作品は「教育用の簡略化モデル」です。血液と心臓のしくみの大づかみな数字をもとにしていて、医療の診断や健康のアドバイスではありません。人によって、また運動や体調によって、数字は大きく変わります。
心臓が1分間に送る量
心臓は、1回縮むごとに血液を押し出します。1回に押し出す量を「1回拍出量」と言い、安静にしている成人(体重70kgほど)で、約70mLが目安です(資料によって60〜100mLの幅があり、もっと大きな値を書く資料もあります)。 1分間の心拍数は、安静時で60〜100回ほどの範囲です。1分間に送り出す量は、1回拍出量 × 心拍数で計算できます。
- 70mL × 70回 = 4900mL。つまり約5リットルです。
- 心拍数が2倍になれば、1分間に送り出す量も2倍になります。
- 1回70mLのまま、心拍数が60〜100回なら、1分間に約4.2〜7リットルで、一般にいわれる4〜8リットルの範囲に収まります。
このサイトのプログラムで、これらの計算を確かめました(blood-circulation/engine.test.ts)。
血液は1分で一周する?
体の中の血液の量は、体重の約7〜8%、70kgの人でおよそ5リットルとされています(男女差、年齢、体格で変わります)。 5リットルの血液を、1分間に約5リットルずつ送り出しているので、割り算をすると約1分です。このサイトのプログラムでは、70mL × 70回なら約61秒になります。 ただし、これは計算上の目安です。血液の全部が同じ道のりを同じ時間で回るわけではありません。肺をめぐる短い道もあれば、細かい道のりを通る血液もあります。「全部の血液がちょうど1分で一周する」とは言えません。
流れの速さが場所で変わる理由
血液の流れる速さは、血管の場所でとても違います。おおまかな目安として、大動脈で毎秒20〜40cm、毛細血管ではずっとゆっくりで毎秒0.3〜1mm、大静脈では毎秒10〜20cmほどといわれます(資料によって値にばらつきがあり、大動脈の速さは、心臓の拍動でも大きく変わります)。
この違いを説明するのが、連続の式です。流れる量(1秒あたり)は、血管の断面積 × 流れる速さで表されます。血液の量は途中で増えも減りもしないので、断面積が広いところでは速さは遅く、せまいところでは速くなります。 毛細血管は1本1本はとても細いのですが、全部の断面積を足すと、大動脈よりずっと大きくなります。このサイトのモデルの値(毛細血管の合計の断面積は4500〜6000平方センチ、大動脈は3〜5平方センチ)では、900〜2000倍です。同じ量が流れるなら、速さは900〜2000分の1になる計算です。 流れがゆっくりなので、血液と体のあいだで、酸素や栄養をやりとりする時間ができます。
資料によって断面積の値が食い違うことがあるので、ここの数字は目安として読んでください。
肺と全身、二つの輪
血液は、一つの輪を回るのではなく、二つの輪を回ります。右の心室から肺へ向かい、左の心房へ戻る「肺循環」と、左の心室から全身へ向かい、右の心房へ戻る「体循環」です。左右の心室が送り出す量は同じです。そうでないと、どちらかに血液がたまってしまうからです。 ここで、よくある思いこみがあります。「動脈は酸素の多い血、静脈は酸素の少ない血」は、いつも正しいわけではありません。肺へ向かう肺動脈には、酸素の少ない血が流れ、肺から戻る肺静脈には、酸素の多い血が流れます。動脈と静脈は、酸素の量ではなく、心臓から出ていく血管か、心臓に戻る血管かで分けています。 このサイトのプログラムでも、この点を確かめています。
また、血液の大部分(70%以上とする資料があります)は、静脈の中にあるとされます。静脈は、血液のたまり場のような役目もしています。
ハーヴィーの「計算」
1628年に、イギリスの医師ウィリアム・ハーヴィーが、『動物の心臓と血液の運動に関する解剖学的研究』(De Motu Cordis)という本を出しました。 その中で、彼は計算をしました。心臓の部屋の大きさを約43mL、1回に押し出すのをその8分の1の約4.7mL、30分間の拍動を約1000回と、わざと少なめに見積もりました。それでも30分で約4.7kgの血液になり、1日では体重をはるかに超えてしまいます。 ハーヴィーは、これほどの血液が体の中で次々につくられ続けるとは考えにくいと考え、血液はつくられ続けるのではなく、体の中をめぐっているのだと結論しました。蛇や魚での観察や、腕を縛る実験でも、そのことを裏づけたとされます。
ここで、注意したいことがあります。「ハーヴィーが血液の循環を初めて発見した」とは言えません。肺をめぐる循環については、13世紀のイブン・アン=ナフィース(1242年ごろ)や、16世紀のセルベトゥス(1546年の写本、1553年に出版)らが、先に述べたとされます。ハーヴィーの功績は、全身の循環を、数の計算も使って説得力のある形で論じたことです。 また、ハーヴィーは、動脈と静脈をつなぐ細い血管(毛細血管)を予想しておらず、血は肉の小さな孔を通って、動脈から静脈へ移ると考えていました。毛細血管が見つかるのは、そのあとの時代のことです。
「毛細血管は10万km」のあやうさ
「毛細血管をつなぐと約10万km、地球2周半」という話を、聞いたことがあるかもしれません。ところが、この数字は、根拠が弱いとされています。 出どころは、デンマークの生理学者アウグスト・クロー(ノーベル賞を受賞)の、毛細血管についての1920年代の本だとされます。そこでは、「筋肉1平方ミリあたり毛細血管2000本」「筋肉の重さ50kg」という仮定で、計算がされていました。
このサイトのプログラムで、その計算を再現しました(blood-circulation/engine.test.ts)。
- クローの仮定(2000本/平方ミリ、筋肉50kg)だと、約10万kmになります。
- 近年の研究を参考にした仮定(約300本/平方ミリ、筋肉約23kg)だと、約7000kmです。これは筋肉の分だけの値です。
- 長さは、密度にも、筋肉の重さにも比例します。仮定を変えるだけで、答えは10倍以上も変わります。
研究者たちの論文では、クローの毛細血管の密度は、今の人の筋肉での測定値よりずっと高く、50kgの筋肉も並外れた体格の人の値だと指摘されています。また、10万kmは、全身ではなく、骨格筋だけの、想像上の一人についての数字だともされています。 ですから、本当の長さはよく分かっていません。有名な数字は、1920年代の仮定にもとづく見積もりで、今の研究ではかなり少ないと考えられています。 このことは、「推定」というものの大事な教訓でもあります。入れる仮定が変われば、答えは何倍も変わります。数字を見たら、どんな仮定の計算かを確かめたいものです。
一生ぶんの拍動
1分間に70回なら、1日で100,800回です。これを80年続けると、約29億4000万回になります。このサイトのプログラムで、この計算を確かめました。 ただし、心拍数は運動や睡眠、年齢で変わりますから、「約70回で80年続いたとしたら」という仮定つきの計算です。
共通すること
- 掛け算と割り算で、体のしくみが見える:1回の量 × 回数、血液の量 ÷ 送る量、断面積 × 速さ。
- 数字は仮定つきで読む:有名な数字も、どんな仮定の計算かで中身が変わります。
- 言い伝えは出どころをたどる:「誰が最初か」「何キロか」は、調べると単純ではありません。
教育用の簡略化モデルです。心拍数の「正常」「異常」を判断するものではありません。体の不安は、医師に相談してください。
出典・参考
- Wikipedia — Cardiac output
- Wikipedia — Hemodynamics
- Wikipedia — William Harvey
- Cambridge — “Blood money: Harvey’s De motu cordis (1628) as an exercise in accounting”, British Journal for the History of Science
- Poole DC, Kano Y, Koga S, Musch TI, “August Krogh: Muscle capillary function and oxygen delivery”, Comp Biochem Physiol A 253:110852 (2021)
- 日本の教育資料(血液量は体重の約7%、70 kg で約5 L / blood volume about 7% of body weight)
- Cogniq Fun — src/lib/games/blood-circulation/engine.test.ts(70 mL × 70回 = 4900 mL、約1分の目安、毎日の拍動数、毛細血管の面積比、長さの見積もりが仮定で10倍以上変わること / cardiac output, one-minute estimate, beats per day, capillary area ratio, length estimates changing more than ten times with assumptions)
更新: 2026-10-17