歯車で速さを変えるしくみ
手動の変速機、遊星歯車、無段変速、左右の車輪の速さを分けるデファレンシャル、自転車の変速。どれも「速さとトルクの交換」という同じ考え方でできています。
車のエンジンは、ある回転数の範囲でいちばん力を出します。ところが車輪は、止まっている状態から高速まで、広い速さで回らなければなりません。そこで間に入るのが変速機です。 ここの5つの作品は、実際の機械をもとにした「教育用の簡略化モデル」です。摩擦や熱の損失、細かい部品は省いて、速さと力の流れだけが見えるようにしてあります。
はじめに: 速さとトルクの交換
歯車の組み合わせでは、入力の歯数と出力の歯数の比で、回転の速さとトルク(ものを回す力)が入れ替わります。 この記事では「ギア比=出力側の歯数 ÷ 入力側の歯数」と決めます。ギア比が大きいほど、出力は遅くなって、そのぶん力が強くなります。損失がなければ、速さとトルクをかけた値(仕事率)は変わりません。 また、歯車を何段もつなぐと、全体のギア比は各段のギア比をかけ算したものになります。
手動の変速機(このサイトの「手動変速機」)
乗用車の手動変速機の多くは、入力軸・中間軸・出力軸の3本の軸でできています。歯車の組は常にかみ合っていて、どの組を出力軸につなぐかを、かみ合いクラッチが選びます。 選ぶときは、エンジンと変速機をつなぐ摩擦クラッチをいったん切ります。摩擦クラッチは滑らせながらつなげますが、かみ合いクラッチは滑らせるのに向きません。役目が分かれています。 また、回転数がずれたままだと歯が当たって鳴るので、円すい形の摩擦リングで回転数をそろえてからつなぎます。これをシンクロメッシュと言います。
このサイトの作品では、例として前進5段と後退のギア比を 3.6 / 2.1 / 1.4 / 1.0 / 0.8、後退 −3.6 としています。これは実在の車の数字ではなく、自作の例です。
プログラムで、どの段でも出力の速さがエンジンの回転数 ÷ ギア比になること、速さとトルクをかけた値が変わらないこと、後退では向きだけが逆になることを確かめました(manual-gearbox/engine.test.ts)。
後退は、歯車の間にもう1つ歯車(アイドラー)をはさんで、回る向きを逆にします。はさんだ歯車の歯数は、ギア比に影響しません。 歴史では、1980年代に5速が広まった、と言われます。そのほか「最初の◯速」の話は、反例が出やすいので、ここでは書きません。
遊星歯車(このサイトの「遊星歯車」)
中心のサン(太陽歯車)、まわりを回るプラネット(遊星歯車)を支えるキャリア、いちばん外側のリング(内歯車)。この3つの要素でできた歯車の組を、遊星歯車と言います。 サンの歯数を Zs、リングの歯数を Zr、それぞれの回転の速さを ωs、ωr、キャリアの回転の速さを ωc とすると、3つの間には次の関係があります。
(Zs + Zr) × ωc = Zs × ωs + Zr × ωr
3つのうち1つを固定し、もう1つを入力、残りを出力にすると、固定する要素によって比が変わります。2つをつなぐと、全体がひとかたまりで回ります(直結、比は 1)。 このサイトの作品では、サンが30歯、リングが70歯の例を使っています。
- リングを固定し、サンから入れ、キャリアから出す:1 + 70/30 ≒ 3.33 の減速になります(いちばん大きな減速)。
- キャリアを固定する:サンとリングは逆向きに回ります。比は −70/30 ≒ −2.33 で、後退に使えます。
- サンを固定し、リングから入れ、キャリアから出す:1 + 30/70 ≒ 1.43 の減速で、小さめです。
- 2つをつなぐ:直結です。
プログラムで、この関係がすべてのモードと両方の回転の向きで成り立つこと、減速 3.33・直結・後退の値になることを確かめました(planetary-gear/engine.test.ts)。
自動変速機は、遊星歯車の3つの要素のうち、どれを固定してどれをつなぐかを、クラッチやブレーキで切り替えて段をつくります。油圧や電子制御でその切り替えをします。
1940年ごろには、流体継手(油の流れで回転を伝える部品)と遊星歯車を組み合わせた量産の自動変速機が登場した、とされています。
無段変速(このサイトの「無段変速」)
2つのプーリー(V字の溝がある滑車)にベルトを掛けます。それぞれのプーリーは、2枚の円すい形の円盤の間隔を変えられます。間隔を狭めるとベルトは外側に上がり、広げると内側に下がります。 ベルトの長さと軸の間の距離は変わらないので、片方が上がれば、もう片方が下がります。こうして、ギア比が段ではなく連続して変わります。 滑りがなければ、ベルトの速さが2つのプーリーで等しいので、出力の回転数は、入力の回転数 × 入力側の半径 ÷ 出力側の半径です。
プログラムで、スライダーをどこに動かしても、ベルトの長さがぴったり一定のまま、2つのプーリーの半径が決まることを確かめました(cvt/engine.test.ts)。
歴史では、1958年の乗用車が、無段変速を使った最初の量産車とされています。ただし、この種の「最初」は反例が出やすい話です。
レオナルド・ダ・ヴィンチが考えたという話も語られますが、どの手稿のどの絵なのか確かめられなかったので、ここでは取り上げません。
デファレンシャル(このサイトの「デファレンシャル」)
カーブでは、外側の車輪のほうが内側の車輪より長い道のりを進みます。左右を1本の固い軸でつなぐと、どちらかが路面で滑ってしまいます。 そこで、左右の車輪の速さを分ける仕掛けがデファレンシャルです。エンジンからの力を受けるケースの回転は、左右の車輪の回転数の平均になります。 ケースの回転数 = (左 + 右) ÷ 2
例えば、車の中心が半径10 mの円を描き、左右の車輪の間隔が1.5 mなら、外側と内側の車輪の速さの比は 10.75 : 9.25、つまり約 1.16 : 1 です。
プログラムで、この比が道のりの比と一致すること、ケースの回転が左右の平均になることを確かめました(differential-gear/engine.test.ts)。
弱点もあります。いちばん単純なオープン式では、片方の車輪が氷の上で空転すると、力がそちら側に逃げて、もう一方の車輪に力が伝わらず、車が進まないことがあります。 作品でも、氷の上に片輪を乗せた例を用意してあり、車が止まったまま、片方の車輪だけが回ります(この場面も、プログラムで確かめた簡略モデルです)。
歴史では、1820年代にフランスのペクールが、蒸気で走る荷車の特許に差動の仕掛けを入れた、とされています。年は資料によって揺れています。 古代中国の「指南車」やアンティキティラ島の機械が差動歯車だった、という説もありますが、それは仮説で、はっきりした証拠はありません。
自転車の変速(このサイトの「自転車の変速」)
自転車のギア比は、前(ペダル側)の歯数 ÷ 後ろ(後輪側)の歯数です。前が50歯、後ろが25歯なら、ギア比は 2.0。ペダルを1回転させると、後輪が2回転します。
後輪のタイヤの直径を0.67 mにすると、ペダル1回転で約4.2 m進みます。プログラムで確かめた値です(bicycle-gears/engine.test.ts)。
ギア比が大きいほど、一度にたくさん進みますが、そのぶんペダルは重くなります。
前が30・40・50歯、後ろが15・20・25・30歯の組み合わせには、30/15、40/20、50/25 のように、同じギア比(2.0)になる組があります。プログラムで、分数のかけ算で厳密に見つけられることも確かめました。 同じ比になる組み合わせはむだになりやすいので、変速の段数が多く見えても、実際に使える比は、それより少ないことがあります。 歴史では、1905年にフランスのヴィヴィーが、後ろの2段の変速機を考えてアルプスで使い、1937年にツール・ド・フランスで変速機が解禁された、とされています。
共通すること
- 速さと力の交換:歯車、ベルト、チェーンのどれでも、損失がなければ、速さとトルクをかけた値は変わりません。
- 比は積になる:つなげた段は、比をかけ算します。
- 切り替えのしかたがちがう:手動は歯車の組を選び、遊星歯車は固定する要素を選び、無段変速は半径を連続で変えます。
5つとも、教育用の簡略化モデルです。損失、滑り、実在の車や部品の数値は、ここでは扱っていません。
出典・参考
- Wikipedia — Final drive
- Wikipedia — Manual transmission
- Wikipedia — Synchromesh
- Wikipedia — Automatic transmission
- Wikipedia — Epicyclic gearing
- Wikipedia — Continuously variable transmission
- Wikipedia — Differential (mechanical device)
- Wikipedia — Derailleur gears
- Cogniq Fun — src/lib/games/manual-gearbox/engine.test.ts(各段の比、速さ×トルクが一定、後退で向きが逆 / ratios, speed times torque constant, reverse flips direction)
- Cogniq Fun — src/lib/games/planetary-gear/engine.test.ts(3つの要素の関係式、減速3.33・直結・後退 / the three-element relation, 3.33 reduction, direct drive, reverse)
- Cogniq Fun — src/lib/games/cvt/engine.test.ts(ベルトの長さが一定のまま比が連続して変わる / belt length stays fixed while the ratio changes continuously)
- Cogniq Fun — src/lib/games/differential-gear/engine.test.ts(ケースの回転は左右の平均、半径10 mの例 / carrier = mean of the wheels, the 10 m example)
- Cogniq Fun — src/lib/games/bicycle-gears/engine.test.ts(50/25で2回転・約4.2 m、同じ比の組み合わせ / 50/25 gives two turns and about 4.2 m, equal-ratio pairs)
更新: 2026-10-17