自然をまねる小さなモデル

光と絵の具、重なる波、単純な決まりから生まれる模様、広がる病気。むずかしい現象を、ごく単純な決まりで再現する「モデル」という考え方のはなし。

色の混ぜ方、波の干渉、セルオートマトン、感染の広がり。ばらばらに見えますが、どれも 「ごく単純な決まりで、複雑な現象のいちばん大事なところだけをまねる」という同じ考え方でできています。これを「モデル」と呼びます。

このサイトの4つの作品は、どれも教育用の簡略化モデルです。本物の現象には、モデルが省いている要素がたくさんあります。

色の混ぜ方(このサイトの「光と絵の具の色」)

画面の光は、赤・緑・青を足して色を作ります。3色を全部そろえると白になります。 一方、絵の具や染料は、シアン・マゼンタ・イエローを混ぜるほど光を引いていくので、暗くなります。 同じ「混ぜる」でも、光は足し算、絵の具は引き算です。

サイトの絵の具は、「理想的な吸収」だけを考えた簡単なモデルです。本物の絵の具は、顔料の透明さなどで混ざり方が変わり、このモデルどおりにならないことがよくあります。

最初のカラー写真

光の3色で色を作れるという考えは、マクスウェルが1855年の色覚の論文で示しました。1861年には、トーマス・サットンがその方法で写真を撮りました。 赤・緑・青のフィルターを通した白黒の写真を3枚つくり、3台の映写機で重ねて映したものです。被写体は縞のリボンでした。

ただし、当時の写真の材料は赤い光にほとんど反応しなかったため、結果は十分ではなかったとされ、マクスウェル自身も不十分だと言っています。 後の研究では、3枚は本当の赤・緑・青ではなく、紫外線に近い光などで写ったのではないか、とも言われています。

波の干渉(このサイトの「波の重なり」)

水面に2つの波源があると、波が重なって、大きくなる場所と打ち消し合う場所ができます。 2つの波源から同じタイミングで波が出ているとき、波源までの道のりの差が波長の整数倍なら強め合い、半波長ずれると弱め合います。 このサイトの計算でも、この性質をテストで確かめています。

ヤングと光の波

1800年代のはじめ、トーマス・ヤングは、光にも波と同じ「干渉」があると考えました。1801年に王立協会へ論文を出し、1803年には、太陽の光と小さな穴を使った干渉の実演を述べたとされています。 その中で、二重スリット(2本の細い隙間)型の実験も説明されました。明るい線と暗い線のしま模様は、粒の考えより、波の重なりでうまく説明できるため、光の波動説を支える証拠になりました。 ただし、ヤングが二重スリットの実験を実際に行ったのかには、疑問も出されています。

のちに、光には粒のような性質もあることが分かり、光は波と粒の両方の性質をもつと考えられるようになりました。波のモデルは、その一部を捉えたものです。

サイトのモデルは、同じ強さ・同じタイミングの波を足すだけです。水の深さ、反射、距離による弱まりは扱っていません。

セルオートマトン(このサイトの「セル・オートマトン」)

マス目の一つひとつ(セル)が、まわりのセルを見て、次の状態を決める。それだけの決まりを何度もくり返す仕組みです。 1940年代に、ウラムとフォン・ノイマンが考えたとされています。

1次元:256通りのルール

1次元では、左・中央・右の3つのセルで次の中央が決まります。3セルの並びは8通りなので、ルールは全部で256通り。ルール番号は、その8通りの答えを2進数に並べたものです。 サイトでは、256通りすべてを、プログラムで確かめています。

スティーブン・ウルフラムは、1983年にこの1次元のルール(特にルール30)についての最初の論文を出しました。 ルール110は、ごく単純なのに、原理的にはどんな計算もできる(万能)と、マシュー・クックが示しました。完全な証明は2004年に出版されています。

2次元:生き残りゲーム

2次元では、周りに生きたセルがちょうど3個あれば誕生し、生きたセルは2個か3個で生き残ります。 数学者のジョン・コンウェイが考え、1970年10月号の雑誌に載ったマーティン・ガードナーのコラムで広く知られるようになりました。 斜めにゆっくり進む「グライダー」が有名です。サイトでは、グライダーが4世代で斜めに1マス進むことを確かめています。

サイトのモデルでは、盤の端の外はすべて空きとして扱います。

感染の広がり(このサイトの「感染の広がり」)

人を「未感染」「感染中」「免疫あり」の3つに分けて、日ごとの移り変わりを数えるモデルは、SIRモデルと呼ばれます。 ケルマックとマッケンドリックが1927年に発表した理論が元になっています。

このモデルは、全員が同じ確率で接触し、回復すると免疫が続く、というような単純な仮定でできています。 それでも、感染中の人数が増えて、やがて減っていく「山の形」のようすを、うまく表してくれます。 ただし、よく合うのは一部の病気だけとされています。

サイトでは、全員の人数が日々変わらず保たれること、接触がなければ広がらないこと、最初から全員が免疫をもっていれば広がらないことを確かめています。 試行ごとに乱数を使うので、同じ設定でも、別の試行では結果が少し違います。

サイトの感染のモデルは架空の病気の簡略化モデルで、医療の助言ではありません。現実の病気や対策の判断には使わないでください。

モデルを見るときの考え方

  • 何を省いたか考える。モデルは、現実のいちばん大事なところだけを残しています。省いたものが何かを考えると、モデルの限界が見えます。
  • 決まりを一つだけ変えてみる。間隔、ルール番号、接触の回数など、一つだけ動かすと、何が効いているかが分かります。
  • うまく合うところと、合わないところを見分ける。どんなモデルにも、うまく説明できる範囲があります。

出典・参考

更新: 2026-10-17